現代MMAは「何でもできる」競技ではなくなった――RIZIN、DEEP、PANCRASE、修斗のU25と勝ち筋の話
2019年と2026年のMMA戦術研究を軸に、RIZIN・DEEP・PANCRASE・修斗の25歳以下9選手を分析。試合運びが多様化する一方で決着パターンは集中した現代MMAにおいて、日本の若手にとって有利に働く勝ち筋を考察する。
現代MMAを「何でもできる選手が強い競技」とだけ言うのは、もう少し違う気がしている。
もちろん打撃も組みもできたほうがいい。だが、2019年以降の研究と2026年までのUFCの流れをつなげて見ると、より重要なのは「全部を平均的にこなすこと」ではなく、自分の勝ち筋を高い再現性で回せることだと分かってくる。
その意味で、いま日本の若手にとって有利に働きやすい方向はかなりはっきりしている。 試合の入口は多様でいい。だが、終点は曖昧だと厳しい。 パンチで壊すのか。上を取ってパウンドで止めるのか。背中を奪って絞めるのか。あるいはその二つを自然につなぐのか。現代MMAはそこが問われる競技になっている。
2019年から2026年までに何が変わったのか
2019年のJamesらの研究は、2000年から2015年までのUFC男子を追い、戦い方が時代とともに多様化したことを示した。距離のある打撃の存在感は増え、グラップリング一辺倒だった時代からは確実に離れている。 ただし、その論文でも勝敗を分ける核として残ったのは、攻撃的グラップリングと正確な打撃だった。
そこから2026年のSantosらの研究まで進むと、さらに面白いことが見えてくる。 試合運びそのものは広がっているのに、フィニッシュの形はむしろ集中してきた。KO/TKOはよりパンチ中心になり、一本はrear naked chokeとback controlへの依存が強くなった。 言い換えると、現代MMAは多様化したのに、決着は最適化された。
なお、これらの論文はUFCを対象にした研究だが、本記事が扱うのは主にフィニッシュの形――パンチで倒す、RNCで絞める、パウンドで止めるといった決着パターンの話だ。この部分に関しては、UFCも国内老舗団体もルール上の差はほとんどない。RIZINだけはサッカーボールキックやグラウンドでの膝が認められているため、グラウンドでの打撃の選択肢がやや広がるが、「どこで終わらせるか」という設計の重要性自体は変わらない。
ここで大事なのは、打撃化とグラップリングの衰退を同じ意味で考えないことだ。 むしろ逆で、打撃の価値が上がった現代でも、最後に試合を止める局面ではグラップリングの価値が依然として高い。打撃で崩して上を取る。組みの流れから背中を奪う。そうした接続が強い選手ほど、現代的に見える。
日本のU25を見たとき、中心に来るのは「接続型」だ
ここからは、上記の論文知見を参照点として、筆者が日本の若手を独自に整理した分類になる。論文がこう結論づけたわけではなく、あくまで「論文が示した傾向を、国内のU25にどう当てはめると見通しが良くなるか」という試みだ。
今回追ったRIZIN、DEEP、PANCRASE、修斗のU25を並べると、大きく3つに分けられる。 打撃ルート主導型、グラップリング主導型、そして接続型だ。
打撃ルート主導型――宇佐美正パトリック、相本宗輝
打撃ルート主導型の分かりやすい例は、宇佐美正パトリックや相本宗輝だ。宇佐美は爆発力があるし、相本は短時間で空気を変える前圧とパンチの怖さがある。2026年論文が示した「パンチ中心のフィニッシュ」という流れに最も合致するのは、こういう選手たちだろう。打撃で試合を終わらせられること自体が、現代MMAでは明確な勝ち筋のひとつだ。
そのうえで、上位戦になるほど問われやすいのが、打撃のあとに組まれたときの耐久力や、打撃優位のまま安全に終点へ入る設計だろう。これは課題というより、伸ばせば打撃型のまま更に上へ行ける余地と見るほうが正確だと思う。
グラップリング主導型――ラジャブアリ・シェイドゥラエフ、鹿志村仁之介
グラップリング主導型では、ラジャブアリ・シェイドゥラエフと鹿志村仁之介が際立つ。
ラジャブアリは上を取ってから終わらせる圧が強く、一本とパウンドの両方を持っている。さらに面白いのは、グラップリングが強すぎることでスタンドの立ち回りも楽になっている点だ。テイクダウンの脅威が常にあるから、相手は組みを警戒して打撃の距離を潰しきれない。結果として、グラップリング主導型でありながらスタンドでも自由に動ける――この構造は、かつてのハビブ・ヌルマゴメドフにも通じるものがある。鹿志村はスクランブルの中で首や腕を捕まえる移行が速い。両者は同じグラップリング主導型でも質が違うが、共通しているのは「どこで相手を終わらせるか」が明確なことだ。
現代MMAはグラップリングが古くなったのではなく、終わらせるグラップリングだけが残る方向に進んでいる。この2人はそのことをよく示している。
接続型――秋元強真、水野新太、栁川唯人、荒田大輝、永井奏多
そして、筆者が最も注目しているのが接続型だ。 秋元強真、水野新太、栁川唯人、荒田大輝、永井奏多。この層は、論文が示した「決着パターンの集中」という傾向に対して、最も多くの引き出しを持てる形だと考えている。
秋元は大舞台でも勝ち筋を切り替えられる。水野は派手なフィニッシャーというより、試合全体を壊さず勝率を積める総合型だ。栁川は柔道の強さをそのまま持ち込むのではなく、打撃を含めたMMAの流れに変換できている。荒田は打撃でも寝技でも終われる形を育てていて、修正力そのものが魅力になっている。永井は打撃からバックコントロールまでの流れがとても自然で、日本のU25の中ではかなり「世界標準の軽量級MMA」に近い。
彼らに共通するのは、「打撃も寝技もできます」という抽象的な器用さではない。 打撃から組みへ、組みからフィニッシュへ、局面をつなげる能力が高いことだ。
老舗4団体は、別々の役割でこの接続を育てている
RIZIN――勝ち筋の再現性が問われる舞台
RIZINは到達点に近い。若手でも、単一武器だけでは押し切りにくい。秋元やラジャブアリが強く見えるのは、単に能力が高いからではなく、勝ち筋の再現性がすでに舞台水準に届いているからだ。鹿志村も、RIZINで通用する「極めの再現性」を示した例として大きい。 RIZINで若手が問われるのは、才能の有無より「勝ち筋をどれだけ大舞台仕様にできているか」だと思う。
DEEP――才能の尖りと総合性の差が見える場
DEEPは、尖った才能と王者になる総合性の差が最も見えやすい。相本のような分かりやすい打撃フィニッシャーもいれば、水野のように地味でも試合全体を設計できる選手もいる。鹿志村がDEEP暫定王座戦線まで来ていることも含めて、この団体は「才能を持った若手が、MMAとしての完成度を問われる場」として機能している。
PANCRASE――ベース競技をMMAに翻訳する場
PANCRASEは、ベース競技をMMAに翻訳する過程が見えやすい。栁川や荒田だけでなく、山木麻弥、小澤武輝、田畑翔太、柴山鷹成のようなTier 2、Tier 3の選手まで視野を広げると、この団体の価値がよく分かる。 強い打撃、強い組み、それ自体ではなく、それをMMAの15分にどう載せるか。PANCRASEはその変換精度を育てるラインとしてかなり優秀だ。
修斗――軽量級の技術密度が高い
修斗は軽量級の技術密度が高い。永井奏多、中池武寛、内田タケル、さらに人見礼王のような比較対象まで含めると、ここでは「組みの細かさ」と「接続の速さ」の差がはっきり出る。 世界基準に近い軽量級MMAを考えるとき、修斗の若手はかなり重要な材料になる。
では、日本の若手はどこを目指すべきなのか
論文の傾向と国内U25の現状を重ねたとき、筆者の結論はこうなる。 「何でも平均以上にできる選手」より、終点まで設計された勝ち筋を持つ選手のほうが、現代MMAの流れには乗りやすい。
もちろん、宇佐美や相本のようにパンチで試合を壊せること自体が強力な勝ち筋だし、ラジャブアリや鹿志村のように組みの終点が明確なことも同様だ。接続型だけが正解なのではなく、どの型であれ「自分はここで終わらせる」という設計があるかどうかが分かれ目になる。
そのうえで、接続型の選手が有利になりやすいのは、終点への入口を複数持てるからだ。 打撃を見せて相手を立たせる。相手の反応を見て組む。倒したらトップで削る。背中が見えたら迷わず取りに行く。あるいは打撃でそのまま止める。 ルートの多さが、終点の再現性を底上げする。
論文の傾向から逆算すると、現代MMAで特に価値が高いのは以下の4つだろう。
- パンチで流れを変える力
- 打撃から安全に組める入口
- 上を取ったあとに逃がさない精度
- バックコントロールからフィニッシュまでの再現性
これは接続型に限らず、打撃型であれグラップリング型であれ、自分の勝ち筋に1つでも多く組み込めると強い要素だと考えている。
逆に、どの型でも厳しくなりやすいのは、「どの局面にも少しずつ対応できるが、どこでも試合を終わらせられない状態」だろう。現代MMAはフィニッシュの再現性に厳しい。
いま面白いのは、トップ候補だけではない
今回深掘りしたTier 1の9人だけでも十分に記事は成立する。 ただ、その外側の層を見ると、よりはっきりすることがある。
仁井田右楽は、まだ上位実績は薄いが、RNCや腕十字などサブミッション終点の輪郭が早くから濃い。山崎蒼空は一本、TKO、判定と勝ち方に幅がある。平本丈は話題性以上に「組み返しとトップ支配」のMMAが見えている。柴山鷹成はRNC軸のグラップリング型として面白いし、田畑翔太はすでに「打って入る、倒す、固めて極める」という一本の流れを作り始めている。小澤武輝は、まだ荒いが打撃で流れをひっくり返せる素材だ。
ここまで含めて見ると、日本の老舗団体は単に若手を回しているのではない。 勝ち筋の濃い若手を、MMAとしてつなげられるかどうか試す場になっている。
2026年時点での指針
2019年から2026年までの流れを一言でまとめるなら、こうなる。 試合運びは多様化したが、決着は集中した。
だから、日本の若手にとって有利に働きやすい方向も見えてくる。 打撃だけでも、寝技だけでも勝ち筋は作れる。ただ、そのどちらであれ、自分の終点へつなぐ設計を持っている選手ほど、この流れの中では強い。
パンチで壊すのか。上を取って止めるのか。背中を奪って絞めるのか。 その答えを持っている選手から、2026年以降の日本MMAの中心に近づいていく。
秋元強真、ラジャブアリ・シェイドゥラエフ、鹿志村仁之介、永井奏多。 そして水野新太、栁川唯人、荒田大輝。 いま本当に注目すべきなのは、単に強い若手ではない。自分の勝ち筋を現代MMAの形で回せる若手である。
参考論文:
- James et al. (2019), Longitudinal Analysis of Tactical Strategy in the Men’s Division of the Ultimate Fighting Championship — Frontiers in Artificial Intelligence
- Santos et al. (2026), Twenty Years in the Octagon: An Analysis of the Strategic Evolution and Distributional Concentration of Knockouts and Submissions in Mixed Martial Arts — MDPI Applied Sciences
よくある質問
この記事の要点を質問形式で整理しました。
現代MMAはなぜ「何でもできる選手」が最強とは言い切れないのですか?
現代MMAでは試合運びは多様化していても、決着の形はパンチ、トップからのパウンド、バックコントロールからの一本などに集中しやすいからです。平均的に全部できることより、自分の終点まで再現性高くつなげられることが重要になります。
記事でいう「接続型」の選手が有利なのはなぜですか?
接続型の強みは、打撃から組み、組みからフィニッシュまでを自然につなげられる点です。入口が複数あるぶん、相手の反応に合わせて終点へ入りやすく、勝ち筋の再現性を高めやすくなります。
日本の若手が現代MMAで伸ばすべき要素は何ですか?
記事では、パンチで流れを変える力、打撃から安全に組む入口、上を取った後に逃がさない精度、バックコントロールから仕留め切る再現性の4つを特に重視しています。
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